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麻帆良白書第3話(×幽遊白書 オリ有) 投稿者:ケンツ 投稿日:04/08-01:09 No.9

     ==第3話 新たな居場所==





「学園長入りますよ」



 タカミチが扉を開けて学園長と呼ばれる人に許可を取りながら扉を開けた。



「フォ、フォ……おお連れてきてくれたか」



 中で待っていたのは一人の老人。タカミチが学園長と言うからにはこの人物こそこの学校で一番偉い方なのだろうと理解は出来た。

 だが、その姿から見れば多少人間性を疑ってしまう。正面から見ればなんら大したことの無い、普通の老人なのだが、不意に見えた側面には驚いた。

 あの後頭部の長さから人間では無く、自分と同じ妖怪に見えてしまう。いや、それ以上に自分より妖怪らしく思えた。

 一瞬首を傾げたが、相手に悟られぬようなるべく表情には出さないようにした。



 ――さて、ここからどうしようか。とりあえず情報収集とこの場を無事に済ませることだけだな。



 蔵馬は付いて来たのは良いとして、この後どうなるかは相手の話の内容に期待するしかなかった。なにせ自分は不可抗力であっても結果的に不法侵入には変わりない。またさっきまで戦闘をしてしまったのだ。

 其れゆえ何かしらの罰が付いても可笑しくは無い。下手したらこの場で殺されるかもしれない。ここで死んだら元の世界の仲間はどうなる?



 ――幽助と桑原君は泣いてくれるかな? 飛影は……馬鹿にして笑っているだろうな。 



 悪い方向へ考えていたのが、今では関係ないことを考えていた自分に自嘲する。

 だが、本当にここはどこなのだろうか? そして自分のことをどうやって説明しようかと色々なことが頭の中で交差する。



 蔵馬は顔には出さなかったものの、ちゃんと頭の中では色々な対策が練られていた。





「フム、ここまで人間の姿をした妖怪を見るのは初めてじゃな」



 学園長が珍しそうに蔵馬の頭から足先まで見る。

 蔵馬はこの言葉に怪訝な表情を見せる。この世界での妖怪は人間とはかけ離れた姿しかいないのだろうかと懐疑を持ったのだろう。





「おい、ジジイ! いったいこいつを呼び出すとはどういうつもりだ!?」



 エヴァはさっきの戦闘を邪魔されたせいもあり、また学園長がのほほんと会話を続けることに遂に堪忍袋のをが切れたようだ。

 しかし未だ学園長がなぜこのような得体の知れない者呼んだのか理解できなかったのだが、怒りで今はそんなことはどうでも良く感じていた。





「コレコレ、そう怒るでない。ところで君の名前はなんと言うんじゃ? 」

 

 学園長はエヴァを落ち着かせ、再度蔵馬に視線を戻し、尋ねる。





「名前はく、…………南野秀一です」

 

 蔵馬は妖怪時の名前ではなく人間時の名前を言った。正直どちらでも良かったのだが、人間時の名前を使ったほうが何かと都合が良いと思ったからである。



「フム、フム。以外に普通の名前じゃな。ところで南野君……君はどうやってこの地に来たのじゃ?」



 さっきまでの陽気な雰囲気とは違い、今の老人から感じる雰囲気はドロッとしたような不気味な殺気。 

 老人の雰囲気に合わせるように近くにいた少女エヴァと男タカミチが鋭い視線をこちらに向ける。 





「? 質問の意味が理解できないのですが……」

 

 蔵馬もこの老人が発する殺気を感じる。またなぜこのようなことを聞いてきたのか不思議に思った。

 どうやって? 考えればキリが無いほど例を挙げれるはずだ。車で来ようとも、徒歩で来ようとも、ここまで来るなら何でも出来るはずだ。

 しかし蔵馬は次の老人の発言で真相がはっきりと分った。

 



「南野君や……ここはな普通の学校とは違うんじゃよ……」

 

 老人が重々しく口を開ける。

 蔵馬も近くの少女を見てそれは思った。宙に浮いて尚且つ、氷の矢など飛ばすのだから普通など有り得ないと分っていた。



「ここではのう、余所者が入ってきても分るよう“結界”が張られておるのじゃよ……」



 沈黙している蔵馬をよそに、老人は淡々と告げる。

 蔵馬もその言葉に反応してか、漸く口を開けた。



「なるほど、だから“侵入者”か……」



 か細い声であったが、夜の、また自分と目の前の老人しか喋っていないこの空間では十分すぎる音量だった。

 この少女が襲ってきた理由が分かったかもしれない。夜の学校でこの都市の住人で無く、外から来る者はどう見たって何かを狙う侵入者しかいない。 

 蔵馬もエヴァと同じ立場ならきっと仕掛けていたに違いないと判断すると、どうもいたたまれない気分になる。



「しかしのう、一番聞きたいのは……君は“どうやって結界に反応せず、あの森まで来たのか?”と言うことなんじゃよ」



「っ!!」



 学園長の言葉に核心を突かれた蔵馬は一瞬詰まった様な表情をする。

 身の覚えはあった。いや、多分“ソレ”しかないだろう。

 “あの声”に呼ばれ、着いた場所がここだった。だったら原因ははっきりしている。 





「どうせ転移魔法か何かの道具を使って来たんだろう」

 

 まだ不機嫌な態度を言葉で見せるエヴァに蔵馬もつい反論してしまう。



「それは違う! 気づいたらここに居たんだ」



「フンッ、どうかな」



「だから……変な声に呼ばれたんだ! 足元には変な物も出来ていた」



「何だと?」



 蔵馬の言葉に驚愕の表情を見えるエヴァ。

 蔵馬とエヴァの口論に焦りながら傍から見ていた学園長とタカミチは、漸く収まったのでホッとしたようだ。

 またタカミチはエヴァが黙り込んでいたので少し怪訝そうな顔をしながらエヴァに近づく。





「どうしたんだいエヴァ?」



 腕を組んで考えていたエヴァだったが、タカミチの言葉に漸く口を開く。



「いや、こいつの言うことが本当なら……不味いことだぞ!」



 エヴァの言葉が部屋に響き渡る。

 タカミチ、学園長は言葉の意味が理解できないせいか困惑の表情を見せ、蔵馬に至っては何が何だか分らなかった。 



「オイッ! お前の世界でいきなり誰かが消えたりしてないか!?」



 食って掛かる様な勢いを見せながらエヴァは蔵馬に問いかける。

 蔵馬もその勢いに一瞬たじろぐが、この質問でもしや自分のことを信じてくれるのでないかと淡い期待を胸に答える。



「ああ。オレの世界では妖怪が今神隠しに遭っているんだ」



「なぁエヴァ、さっきから言っていることが分らないんだが……」  



 真剣な表情を見せる蔵馬に対し、さっきから蔵馬とエヴァのやり取りが理解できなかった学園長とタカミチは、現状を理解すべくエヴァに尋ねる。 



「あ、あぁすまない。どうやらこいつは異世界から召喚されたようだ」



「「召喚だって(じゃと)!?」



 召喚という言葉に愕然とする学園長とタカミチ。

 蔵馬はどうやら事態が予想以上に重いことは理解できたが、それでも彼女の口から出てきた“召喚”“転移魔法”など奇怪なワードが飛び交うからして彼女達の正体が一体何者なのか分らなくなった。



「……それより良いか?」



「何だ?」



「貴方達は一体……?」



 異様な雰囲気の中、蔵馬は怪訝な顔をしながらエヴァに借問する。

 エヴァは一瞬吃驚した顔になるが、蔵馬の問いを答えるのが面白いのかニヤニヤしながら答える。



 

「そうだな……私たちは“魔法使い”だ」



「…………は?」



 エヴァの口からでた言葉は蔵馬にとっては摩訶不思議、いや現実逃避したくなる言葉だった。





 ――あぁ、おれも遂におかしくなったか……



 明後日の方向を向きながら蔵馬は己の今までの人生について自問しているようにも見えた。



 

「おいおい……この場で冗談は」



「冗談じゃないぞ」



 溜息交じりで呆れた表情の蔵馬。

 しかし、エヴァに至っては真顔になっており、タカミチや学園長の方へ視線を変えても彼等は頷くだけだった。



「嘘だろ……」



 彼女と戦ったときの光景を思い出し、確かに宙に浮いたり氷の矢などを使っていた。

 自分の世界ではそのような者もいた。しかし、この世界ではその者は“魔法使い”と言われているようだと分ると、蔵馬は思わず項垂れる。  

 自分の世界では魔法使いなど単なる空想にすぎず、テレビで見るようなアニメにしか思い当たらない。ここに小さな子供でもいれば大喜びなのだが、自分にとっては何の喜びもない。それよりも嫌悪感が強かった。





「……とにかくこいつに説明が必要だな」 



「そうだね」



 頭を抱えている蔵馬の姿を見て、エヴァは同情混じりの口調でタカミチに同意を求める。

 タカミチも苦笑いで答えるが、蔵馬の気持ちも分らないわけではない。ここは何とか蔵馬に理解してもらおうと必死に説明することにした。





 お互いの世界について話し合った蔵馬たちは、漸く話を進めることが出来た。

 蔵馬も魔法使いがいるとはいえ、世界観としては自分の世界と変わりはないと判断するとすぐに馴染めた。





「取り合えず何とか理解は出来たが……召喚というのはそんなに不味いことなのか?」



「いや、問題は術者だ」



「術者が?」



 エヴァの言葉に周りはシンとなる。

 蔵馬も魔法という事は分ったのだがイマイチピンと来ないのかエヴァに聞きなおす。





「そうだ……お前みたいなのを召喚するとなると相当の術者だぞ」



「そうだね。この学校で召喚なんて出来る人はいないと思うよ」   



 どうやら召喚とはこの世界では滅多に出来ないそうだ。

 蔵馬の世界では召喚など無かったが、妖怪を飼いならす者はいた。

 魔法でどれが凄いなどはさっぱり分らないが、それでも話の内容からして召喚とはよっぽど凄いことはおおむね理解できた。





「オレは元の世界に帰れるのか……?」



 だがエヴァの言葉をよく考えてみると呼び出すことがそれほど難しいのなら帰すことも同様なのでは?

 こういうときに限って頭の回る自分が嫌になる。

 

「いや私たちじゃ無理だ……第一にお前の世界を知らない」



 この言葉に蔵馬も少なからず衝撃を受けた。

 そのなかで思い出すのは母や友人。もう二度と会うことが出来ないと思うと胸が締め付けられると共に、沈んだように顔を背ける。そうでもしないと彼女達の顔を見れば余計に辛くなるからだ。

 



 ――本当にこれで良いのか?……このまま諦めるのか? 



 誰かの声が聞こえる。 

 それは自分の心に自問しているのか? それともあの時の声がまだ聞こえるのか? そんなことを考えている自分に思わず自嘲する。





「どうすれば良い?」



 顔を上げた蔵馬の瞳には何かを決心したような光が灯り、言葉には絶望という負の感情などは一切無かった。

 

 エヴァは一瞬、その瞳に見入ってしまった。

 単に綺麗だけではなく、瞳の奥深くにある何かに気づいたからだ。

 だが今はずっと蔵馬の事を見ているわけにはいかない。咄嗟に蔵馬の目から視線を変え、顔を背ける。



「術者を探すしかない……そいつに会って帰してもらうしかない」



 背中越しだったためエヴァの顔は見ることは出来ないが、口調から見ても本当のようだ。

 

 会話はそれっきりなくなり学園長室は無音の空間と化す。

 蔵馬は一旦溜息を吐き自分のせいでここまで暗くなってしまったのだから、あまり表には出さず、押し殺してまでも平常心を保つことにした。





「そうか……だったら今すぐにでも探すか」



 蔵馬はこれ以上ここにいても意味がないと悟ると、一度皆に礼をし、その場を去ろうとする。





「おいおい、誰が出て行けと言った」



 エヴァの言葉に呆気に取られた蔵馬。

 エヴァの顔を見ても彼女は挑戦的な笑みを浮かべ、確信に満ちたような口調で告げていた。



「無闇に探しても見つからないよ。ここでゆっくり探せばいいじゃないか」



 今度はタカミチに視線を変える。 

 笑顔で蔵馬を見るタカミチ。エヴァといいこのタカミチといい言葉からどうとっても自分を誘っている様にしか思えない。



「フォ、フォ……これで決まりじゃな」



 最後に学園長に視線を向ける。

 相変わらず余裕を感じるその口調は蔵馬にとっても気休めであるが心に余裕を持たせてくれた。



「決まり……とは?」



 もはや答えはわかっている。だが、それは本当なのか? 

 ここは一番話しやすいエヴァに恐る恐る尋ねることにした。





「多数決で決まりだろ? 四人のうち三人が“此処に居ろ!”とな」



 睨むように強くは無く、また怯えたように弱弱しくは無い、立派な表情を見せるエヴァ。



「え? それって……」



 一つ間を置いた蔵馬はこの言葉でこの者たちが本気であることは分かった。だが、それは下手をすればこの者達を巻き込むことにもなる。

 そのような今後のことの成り行きを危惧していた蔵馬だったが、それに関係なく三人は何かを決心した様な表情でお互いに顔を見合わせ、頷き合う。そしてタイミングを見合わせて。

 



「「「麻帆良学園へようこそ!」」」 



 三人の歓喜にも似た声が学園長室に木霊する。この響きが冬の雪を溶かすように蔵馬の心の奥まで浸透していく。

 それでも蔵馬は歯を食いしばり、何とか顔には出さないようにした。なぜなら、そうでもしないと目のから何か熱いものが流れる様な気がしたからだ。





「それであいつの住むところを探さねば……」



「フォ、フォ。それならば明日までに直ぐ手配しよう」



「それよりもまず、南野君が自由に行動できるよう何か役職をつけないと……」 



 蔵馬が余韻に浸っている間、いつの間にか三人は今後の蔵馬について話し合っているようだ。

 蔵馬としてはさっきまで自分が感動していることに少なからず、恥ずかしかったようである。

 思わず大きな溜息をついた蔵馬だったが、その溜息が聞こえたのか、それとも話し終えたのか、同時に振り返る姿に一瞬吃驚した。



「南野君……君は頭は良い方なのかね?」



 いきなりそのようなことを尋ねられた蔵馬だったが、そろそろ南野ではなく、蔵馬と名乗っても良いだろうと判断すると。



「すいません……南野ではなく、蔵馬でお願いします。それが本当の名だから……」



 一瞬エヴァの顔が険しくなったのが見えたが、今は完全に信用を得る為にも自分の全てを打ち明かしてもいい、どうなるかは覚悟は出来ていた。





「ほほ、なら蔵馬君……君には頭が良いのかね?」 



「ええ、一応……」



 それでも再度暖かい笑みで尋ねる学園長を不審に思いながら、蔵馬も釣られたように不敵な笑みを浮かべ、謙虚にも思える返答をする。



「なら君にはこの学校で教師をやってもらう」



 ――なるほど。これなら自由に行動が出来る。





 この言葉に蔵馬はさっきの質問の意味を理解する。

 またこの老人のご厚意に感謝した蔵馬だったが、次に今日はどこで暮らせば良いのか? 顎に手を添えながら悩んでしまう。



「何を悩んでいる……今日は私の所へ来い」



 神妙な面持ちで考え込んでいる蔵馬に呆れながら、エヴァは自分のところへ泊まらせることを勧める。

 そうだ悩む必要など無い。蔵馬にとって前の世界と同様、今この場が自分にとって理想郷ではないか? 

 また妙な考えをしていた自分に嫌になるが、今は好意という暖かい言葉が打ち消してくれた。





「ありがとう、エヴァ」



「おいおい、いきなり呼び捨てか? まぁいい……行くぞ! 茶々丸」



「ハイ、マスター」



 呼び捨てで呼ばれることがあまり好きではないように発するエヴァだが、しかし表情から見てもまんざら嫌ではなさそうだ。

 エヴァに呼ばれた茶々丸は今まで会話に加わることなくずっと無表情で立ち続けているだけで、蔵馬にとって彼女はエヴァの何なのだろうと少し訝しむ。

 だが今この場で考えるのは場違いであろう。

 学園長室から出て行くエヴァの後を追い、部屋を出ようとする。しかし、扉の前で最後に学園長とタカミチに向かい深い礼をする。





「本当にありがとうございました……」 



 口調からいかにこの言葉が深く、意味があることはこの場にいた者全て分っていた。

 廊下でエヴァも静かに聴いていた。蔵馬と同じ、人ではない者としては誰よりも蔵馬の気持ちを理解していた。



 また歩みも一緒に止まっていたのか、再び歩き始める。

 蔵馬もいつまでもこの場で頭を下げていてはいけないので、静かに扉を閉めると、その後学園長室には彼等の歩く音だけが聞こえた。

 



 蔵馬たちがいなくなってから数分後。学園長は不意に時計を見る。

 短針がすでに2の数字を超えており、いつの間にか一時間以上会話をしていたことに気づく。

 またさっきまでの緊張が解けたのか、大きな溜息をし、より深く椅子に腰を掛ける。

 そんな学園長の姿を見たタカミチはおもむろに苦笑いをし、窓越しに見えるあまたの星星を静かに見つめていた。 





「蔵馬君、君は確かに妖怪であろう。……じゃが心は妖怪じゃないよ。……そんなやさしい妖怪はおらんのじゃからな」



「……そうですね」



 不意に学園長が呟く。自慢の髭を撫でながら、もうこの場にはいない蔵馬に対し呟く。

 タカミチは学園長の呟きが聞こえていたが、未だに星を見ているのか視線を変えず、そのまま学園長に相槌を打つだけだった。





          ==エヴァ宅にて==





 蔵馬達はエヴァの家に向かいながらいろいろな話をしていた。

 蔵馬の世界での妖怪について、またエヴァの過去についてなど、お互い同じ者同士だからここまで会話に盛り上がることが出来るのだろう。

 

「お前も苦労してるんだな……」

 

 蔵馬に顔を向けず、前だけを見ながら蔵馬に呟く。



「そんなことはないさ。そっちの話を聞く限りオレよりも辛いことだぞ…………あれが、家か……」



 同じように蔵馬もエヴァに顔を向けず、前だけを見て歩いている。

  

 しばらく歩く三人の目の前には木で作られた家が見えた。ログハウスだろう。麻帆良学園から少しはなれた森の奥にこんな立派な建物があることに蔵馬は感嘆の声を上げる。





「ああ、そうだ。まぁ一人くらい増えても大丈夫だろう」



 寝床の心配だろうか? もし無くても我慢すれば外でだって寝ることもできる。

 たとえ自分がそう思っていても、彼女は強引にでも寝床を作ってしまうだろうと考えると嬉しいようなおかしいような、不思議な感覚が込みあがってくる。 



 家の中に入ってみると意外にも広く、どこでも寝ることが可能だということが判明した。

 しかし一番意外だったのは、たくさんの人形。100歳以上生きている者がこのような趣味を持っていることにギャップを感じる。



「おい、コーヒー飲むか?」



 部屋を見回していた蔵馬だったが背中越しから聞こえる声に反応してゆっくり振り返る。

 そこには片手にデミカップを持ったエヴァの姿。 

 

「あぁ、いただくよ……」 



 蔵馬の言葉を聞いたエヴァはソファーに座るよう促す。

 蔵馬も指示されたとおりに座る。座ってみると意外にも居心地が良い。高そうな家具を扱っているのだなと意味も無い事を考える。





 数分と経たないうちに、茶々丸から運ばれたコーヒーがテーブルの上に置かれる。

 早速香りを嗅いでみるとこれがまた何とも良い匂いが鼻を突く。 

 そして一口飲んでみると、コーヒーの温かさが口から体に伝わり、ほろ苦さと砂糖の絶妙な甘さが味覚を刺激する。



「おいしい……」



 お世辞ではなく、無意識の内に出た一言だった。

 この言葉を聞いたエヴァは自信ありげな表情で、そうだろ! そうだろ! と言いながら蔵馬と同じようにソファーに勢いよくどっかりと座る。



「ありがとうございます」



 茶々丸もこの言葉を聞いて蔵馬に御礼の一礼をし、手に持っていたお盆を片付ける。 

 そんな姿を見ていた蔵馬はエヴァにだけ聞こえるように呟く。



「戦うだけじゃなくて、こんなことも出来るんだな」



「ああ、なんせ私の自慢の従者だからな」



 従者だからというのは関係なく思えたのだが、エヴァの自信満々の顔を見るとそのような事は言えるはずも無い。

 彼女が淹れたコーヒーに視線を移せば、目の前の少女が自慢したくなるのは当然だと感じた蔵馬だった。



「さて……明日から忙しくなるな」



 コーヒーと一緒に付け加えられたクッキーを摘まみ、観念したように言い放ったあと、口に放り込む。

 

「まぁ多分私たちのクラスだろうな……」





 ――私たちのクラス?



 エヴァの言葉に体が一時停止する。

  



「エヴァは中学生なのか?」



「……ああ、そうだよ。私と茶々丸は同じクラスなんだ」



 怪訝そうな表情でエヴァに尋ねるが、エヴァは一旦間を置き、次に出た言葉には多少の怒りが含まれていた。

 蔵馬も彼女がどうしてここまで憤りを感じているかはすぐ理解できた。

 

「それはさておき……一癖も二癖もあるクラスだからな。きっと忙しくなるさ」





 ――そこまで凄いのか?



 エヴァの表情を見ても嘘を言っているようには見えず、これは覚悟を決めたほうがいいと判断する。

 コーヒーを飲み終えたときには蔵馬も明日に備えようとエヴァに寝床を催促する。 





 その時だった。蔵馬は一瞬であったものの、自分の体から妖気が無くなるような、まるで精神が抜かれたような虚無感を感じた。



 蔵馬はその場で動けなかった。まるで自分体が自分の物じゃないような気がしたからだ。



 確かにいつも妖気を発しているわけでもないが、全く出さないわけでもない。

 戦闘に支障が出ない程度の妖気は出している。





 蔵馬は不思議な違和感を感じたのか、右手に視線を移し、手を握ったり開いたりの繰り返しという不自然な動作をする。

 これを見ていたエヴァは、さっきの戦闘でもしやどこか怪我をしたのではないかと心配そうな眼差しで蔵馬を見ていた。





「大丈夫……ちょっと外出する」



「ん……分かった」



 蔵馬もエヴァの視線に気づいたのか、エヴァになるべく気を使わないように席を外す。

 逆にエヴァはそのような行動がより一層不安を大きくした。





 蔵馬はエヴァの家から少し離れた場所で静かに佇んでいた。まだ春になるには早く、頬に当たる風がまだ冷たい。

 肌で空気を感じ、耳で風の音を聞き取る。体の全神経を集中し、自分の体にある妖気を出来る限り出した。

 蔵馬の体から溢れんばかりの妖気が滲み出る。そのままの状態をしばらく保つ蔵馬だったが、もう十分だったのか、さっきまでの妖気がうその様に静まった。



「やはりそうか…………まずいことになった」



「何が“やはり”なんだ?」



「!!」



 気配を感じないまま、後ろから急にエヴァの声が聞こえたので蔵馬は吃驚した。



「いつからそこに?」



「お前が妖気を出しているときからな」





 ――なるほどね……



 蔵馬の質問にしてやったりの表情で答えるエヴァに思わず苦笑いが出た蔵馬。

 また自分が周りが見えないほど集中していることは少なからず褒めても良いとも思っていた。



「ったく、何を笑っているんだ。それより何が“やはり”なんだ?」

 

 エヴァは呆れた様に蔵馬に物を言うが、言葉からするとやはり蔵馬の事が気掛かりのようだ。

 口調から重々しく感じるのは、見てくれが少女でも100年以上は生きているからだからだろう。



「それが……どうも“アレ”になることが出来ないんだ」



 エヴァから視線を一旦外し、夜空を見上げながら呟く。悲哀の表情を浮べる中に諦めが含まれているようにも思えた。



「“アレ”だと? ……オイッ! ”アレ”とは一体何だ!?」



 胸倉を掴まれながら、心配そうなエヴァの顔を見る。

 蔵馬も思わず口走ってしまった言葉に後悔の念が押し寄せる。

 蔵馬は一旦彼女を落ち着かせると、服装を整えながら話し始めた。 



「すまない、あの時ついでに話せばよかった……」



「それはどうでもいい……で、“アレ”とは何だ?」



 悲哀の表情を浮べながら謝罪する蔵馬に溜息をつきながら、エヴァは蔵馬に再度尋ねる。



「俺の正体は妖狐だ……今は人間の姿をしているがな」



 神妙な面持ちで話し始める蔵馬。エヴァも真剣そのもので蔵馬の話に耳を傾ける。星の光が二人を照らし、二人の談話が始まった。 

 夜の風は冷たく、痛くも感じるのだが、それでも二人は家に入ろうとはせず、一向にその場を離れる仕草も無かった。





「そうだったのか……何か原因があるのか?」



 一旦話が終わり、二人の間に静寂が訪れる。

 顎に手を当て、少しの間考え込んでいたエヴァは怪訝そうな表情を浮かべ、心配そうに言う。

 本来の力が出せないなら何か原因があるはず、そう思い蔵馬に尋ねてみることにしたのだ。



「……ここに来る前の魔法陣か?」



 蔵馬はもう可能性として浮かび上がった原因をエヴァに話した。

 エヴァも蔵馬の言葉に何か思い出したような顔つきになる。





「ありえるな……術者に逆らわない様に組込まれたんだろう」



 エヴァは蔵馬の話を聞いて多分制約類のものを受けているに違いないと思ったのである。自分も呪いの制で本来の力を発揮できないからおそらく一緒であるとそう感じていた。

 エヴァの話を聞いて蔵馬は少し落ち込みながらもすぐにきを取り直し、暫らく外で話していたせいだろう。体がすっかり冷え切っていることを今になって感じる。

 エヴァに視線を移すと彼女も小刻みに震えていた。それもそのはず、彼女はさっきまで着ていたマントを外して薄い黒のレースが付いたドレスだから当然だろう。



「おい! いい加減中に入るぞ!」



 遂に我慢できなくなったのかエヴァは少し泣きそうな表情で蔵馬に怒鳴る。

 蔵馬もこの姿を見て思わず笑ってしまった。



 ――だったここで話さなきゃ良いのに……



「おいっ、笑うな!」



 エヴァも蔵馬が笑っていることに気づくと、向きになって文句を言う。

 そのやり取りは家の中に入ってもしばらく行われていた。





「仕方ない……しばらくは様子を見るしかないな」



 ようやくエヴァの怒りが収まり、就寝につくことが出来た。時計を見ればもう三時をゆうに過ぎている。

 エヴァに連れられてみるとそこにはきちんと整ったベットがあった。

 今日は色々なことが有りすぎた。疲れと眠気が同時に押し寄せ、瞼が重くなる。 





「明日はもっと大変だろうな」



 独り言にもとれるその言葉は夜の闇と共に静かに溶け込んだ。





 真っ暗な夜の中一人の青年は不運にも知らない世界へ来てしまった。

 しかし青年はめげない、なぜならこんなにも優しくしてくれる人達に出会えたのだからだ……、どんなことがあっても青年は歩くのを止めないだろう、この事件の真実を知るまでは。

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